【プロセカ】テーマ曲「セカイ」の尊さをエンジョイ勢のボカロPが解説 | G.C.M Records

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【プロセカ】テーマ曲「セカイ」の尊さをエンジョイ勢のボカロPが解説

はじめに

こんにちは、ボカロPのアンメルツPです。

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』のリリース前日に思いを綴ったブログ記事は、
多くの方々に読んでいただき本当にありがとうございました。

稼働からしばらく経ちましたが、正直な感想としては
思った以上に自然に受け入れている自分自身がいます。

また周りの反応も、リリース前に比べると案外好意的なものが多い印象は受けました。
インストールを躊躇していた人が、一週間後には「こはねちゃんかわいい」と言い出したり、
最近は別ジャンルをメインとしていた古くからの知人が再びボカロを話題にしたりといった具合です。

今のところそうなっているのは、運営サイドの舵取りや、そこから生まれたキャラクターたちに、
音楽や創作に対するリスペクトをある程度感じられるからというのが大きな要因かと思います。

もちろん変わらず抵抗感がある人もいます。

新たな層の流入による衝突も、いまは特別目立ってはいませんが全く無いわけではありません。
それはこれまでの大きなコンテンツで繰り返されてきたことなので仕方ないです。

自分自身はこのゲームには1日数十分~1時間ほど出没しており、
みんなでライブにも「gcmstyle」というそのままの名前で現れています。
基本的にエンジョイ勢としてマイペースで楽しんでいこうと思います。

さて、今回はこのプロセカに収録されている「セカイ」という楽曲の魅力や、自分なりの解釈を
お話ししたいと思います。

ストーリーの直接的なネタバレはありませんが、
歌っている個別のキャラについて少し踏み込むかもしれませんのでご了承ください。

豪華ボカロPによるコラボ曲「セカイ」

「セカイ」とは、DECO*27さん作詞、堀江翔太(kemu)さんが作曲、
Rockwellさんが編曲を行った、プロセカへの書き下ろしテーマソングです。

YouTubeで公開されているバージョンでは、初音ミクがソロで歌っており、フルサイズで聴けます。

プロセカのゲーム内では、ミクがソロで歌う「バーチャル・シンガーver.」と
オリジナルキャラ「星乃一歌(ほしのいちか)」「天馬司(てんまつかさ)」「宵崎奏(よいさきかなで)」と
ミクが4人で歌うバージョン「セカイver.」の二種類が収録されており、
どちらを遊ぶかはゲーム内で自由に切り替えることができます。

音ゲー中は忙しくてMVを見れないのですが、このゲームにはMV鑑賞モードがあります。
ゲーム内から「MV鑑賞」→「オリジナルメンバーでMV再生」にチェックを入れることで
ユニット編成に関係なくオリジナルメンバーでMVを見ることができます。

プロジェクトセカイ MV鑑賞モードスクリーンショット「オリジナル・メンバーでMV再生」
MV鑑賞モード→「オリジナルメンバーでMV再生」で、歌っているメンバーでMVを再生できます

ちなみにチェックを入れないとゲームとしてユニット編成しているメンバーで再生されますが、
自分が好きなキャラクターを入れて歌わせるのも一興です。

ゲームをやっていない人でも、
サビの部分のMVがプロセカの公式YouTubeチャンネルより公開されていますので、すぐにご覧いただけます。

ミクソロバージョンを聴く

まずはYouTubeに公開されている、ミクソロ版を聴いてみてください。
歌詞は、動画説明文に掲載されています。

さて、どんな印象を持ったでしょうか?
そして、この曲で「キミ」と「僕」はどんな人物でしょうか?

ミクソロバージョンでは歌っているのが初音ミクであり、
「キミの未来を僕が歌うよ」という歌詞もあることから、
「キミ」がリスナー・クリエイター・私たちであり、「僕」が初音ミクだという
解釈になるのがおそらく自然かと思います。

このミクソロバージョンもとても尊いです。

初音ミク誕生から10年を超えて、ボーカロイドが日常に溶け込んだ現代社会の中で、
原点である「歌うソフトウェア」という枠をはるかに超えて、
「人生を彩るパートナーとしての初音ミク」というメッセージを強く押し出した
2020年ならではの初音ミクの歌かと思います。

ちなみに「『歌うソフトウェア』という枠をはるかに超えて」というのは裏を返せば、
実はこれ「僕」が人間であってもある程度読みが成立する歌詞なんです。

例えばバンド仲間だったり、ライバルだったり、Pと絵師だったり、
恋人やパートナーでも置き換えられます。

したがって「ミクが歌う必要ないのでは?」と思う人も当然出てくるとは思うのですが、
私は、「聴き手が自由に解釈できる余地のある概念」を歌ってもらうには
初音ミクが最of高の歌い手だと考えています。

プロジェクトセカイというゲーム自身、「初音ミクのゲーム」ではなく
「初音ミクも登場するゲーム」であることに間違いないが、
しかし同時に「初音ミクがいないと成立しないゲーム」であるのと一緒ですね。
(そのあたりはリリース前日の私の記事を読んでください)

このゲームでは「Tell Your World」がチュートリアルでの一種の鍵となる楽曲として登場するのですが、
「みくみくにしてあげる♪」(2007)→「Tell Your World」(フル版2012)→「セカイ」と歌詞を辿ると、
だんだん「歌うソフトウェア」そのものから「歌うソフトウェアという存在が引き起こす概念」へと
テーマが変貌していく、ここ十数年の音声合成技術&キャラクターの歴史の象徴みたいなものが垣間見えます。

ボカロシーン、最先端についていくために過去の認識や先入観を毎年アップデートしていく必要があるのは
エネルギーはいるんですが、そこがまた楽しくもあります。

音楽やキャラクターの存在が、誰かの明日を、セカイをちょっとだけ変えていく。
そんな本質に迫るような人生讃歌で大好きです。

4人のパートを割り振る難しさについて

さあ、その上で4人で歌うセカイver.を聴いてみましょう。

こちらなんですが、
セカイver.のパート割り振り、歌い分けがとても絶妙だなと思ったので
そこを中心に語っていきたいと思っております。

私アンメルツPは鏡音リン4人によるボーカルユニット「4-Rin’ Melts」をプロデュースしていますが、
一曲の中で4人をパート分けすることはなかなか大変です。

それぞれの人物が歌うことに意味がある歌詞であるほうがもちろん望ましく、
かつ全員の思いが共通するところは合唱であってほしい。

それから4人のパワーバランスも考える必要があります。

みんな平等に扱うのか?
センターとして一人を目立たせるように意図的に割り振るか?

こうしたところが毎回頭を悩ませるわけですね。

では、この曲のセカイver.で歌っているミク以外の3人とはどんな人物でしょうか?
事前にざっくりとした人物像を把握しておいた方が
これから説明することがより理解しやすいと思いますので、以下に記しておきます。

ざっくり人物紹介

星乃一歌

ガールズバンド「Leo/need」リーダー、ボーカル・ギター担当。
小学校時代からのミク廃。(#一歌ミクオタク伝説
タイトル画面でミクと手を取り合っている子であり、人間キャラでは全体の主人公的存在。

プロジェクトセカイ 自己紹介 スクリーンショット 星乃一歌

天馬司

ミュージカルユニット「ワンダーランズ×ショウタイム」リーダー。
スターになりたい俺様系男子。

プロジェクトセカイ 自己紹介 スクリーンショット 天馬司

宵崎奏

創作&歌唱ユニット「25時、ナイトコードで。」リーダー、作詞作曲担当。
通信制高校で学びながら家からあまり出ずに曲を作っている。闇を抱えている。

プロジェクトセカイ 自己紹介 スクリーンショット 宵崎奏

3人の存在とこの曲の位置づけとは

この曲で歌っているのは、現時点で5組ある人間のユニットのうちの
3組のそれぞれリーダーという位置付けの人物です。
つまり、ユニットを象徴する人物と言っても過言ではありません。

なお、ゲーム内では、別ユニットのメンバーが絡むこともありますが本流ではありません。
学校のクラスメイトや、きょうだいといった家庭内の関係はありますが、
別ユニットに所属する者どうしが一緒に歌うことは基本的には無いのです。

すなわちこの3組のリーダーが集まって歌っているということは、
この曲が、異なるセカイの横断、全体を総括する存在とでも言うような、かなり特殊な立ち位置
ものであることを意味します。

なお、同じポジションのテーマソングには他に、
初音ミクと鏡音リンのデュエット曲「ワーワーワールド」があります。
こちらのセカイver.では残り2組のリーダー(花里みのり、小豆沢こはね)とミクが3人で歌っています

それを踏まえて歌詞をなぞっていきたいと思います。

以下、歌詞にパート分けを加えて、音ゲーとして流れる1番の部分を引用しています。

パート分けは私の聴き取りとMVでのポジションや口の動きから推測をしましたが、
合唱パートにミクが入っているか入ってないか微妙なところがあったので、
もしかしたら間違いがあるかもしれません。

この四人ではミクの聴き取りが一番難しいという、ボカロPとして非常にゆゆしき事態です。

歌詞に沿って歌い分けの魅力を語る

Aメロ

(一歌、ミク)ずっと探してたんだよ
(一歌)特別だって言える場所

(奏、ミク)なんで僕を選んだの
(奏)笑うキミが手を引いたんだ

(司、ミク)だってキミはすごいから
(司)負けらんないなって思うんだよ

(一歌、奏、司)
どんな時も僕の中に キミの声が鳴り響いていた 

まずこの「人間+ミク→人間ソロ」×3人分、というパート分けがたまらない!
ミクの力を得て二人で歌ってからソロで歌うという流れは、ゲーム全体のメッセージにもぴったりです。

ミク廃の一歌がミクと出会えた喜びをいの一番に表現しているのはエモいし、
作曲家の奏がミクに手を引かれるのも尊いし、
強気な司がミクにライバル心を抱いているように聴こえるのも美味しいですね!(早口)

そしてこの4人が歌う曲のパート分けでは珍しい、3人の合唱。
4人だけど「人間&ミク」という2組にも分けられるからこそですね。

人間が歌っているため、解釈として「僕」と「キミ」はミクソロ版とは逆に読み取れます。
3人の中には常に初音ミクの声が鳴り響いていたわけですね。

MVでは「どんな時も僕の中に~」を人間3人が固まって歌い、ミクがその横で踊ってる構図もとても好きです。

プロジェクトセカイ リリース記念最終公演 スクリーンショット「セカイAメロ」
画像は10月上旬に開催されたバーチャルライブ「リリース記念最終公演」でのスクリーンショットです。以下も同様

Bメロ

プロジェクトセカイ リリース記念最終公演 スクリーンショット「セカイBメロ」
ここで人間をかき分けて後ろから登場してくるミクさんもエモい

(一歌、奏、司)怖いんだ

(ミク)
なにもない僕だけどできるかな
自信のなさとしょうもなさでいい勝負さ

(一歌、奏、司)けど

(ミク)キミは「それがどうしたの?」って顔をして

(全員)歌を歌うじゃない それはズルいじゃない?

Aメロはミクのサポートを受けた人間をメインに置いているのに対し、
Bメロはほぼミクが主役のパートとなっております。
「なにもない」からこそ何にでもなれる初音ミクという概念が表現されているかなと。

ここにちょっとJ-POPの本流とは外れた、三連符が続くkemuさんらしいメロディを持ってきているところも
ミクのパートであることを意図的に表現したと推測できなくもないですね。

ミクソロ版もそうなんですが、「初音ミク=僕」とすると、
ここで「キミは~歌を歌うじゃない」というところに若干の解釈の幅が生じます。

プロセカの人たちは全員自分で歌を歌えるので、そのまんまの意味ではあるのですが、
「人間が歌を歌う」=「人生、人間の生きる行為」の比喩のような気もします。
私はそう勝手に解釈して、読みの幅を勝手に広げています。

サビ

プロジェクトセカイ リリース記念最終公演 スクリーンショット「セカイサビ」
「飛び込んでいこう 僕らのセカイへ」では4人が並んで歌う
プロジェクトセカイ リリース記念最終公演 スクリーンショット「セカイサビ」
一歌、ミク「キミと見たいセカイへ」

(全員)飛び込んでいこう 僕らのセカイへ 正解の想いに出会えるかな

(一歌)歌っていたい
(司)踊っていたい
(奏)痛いくらい笑えるように

(一歌、ミク)名前もない 僕らの世界を
(司)迷っていけるよ キミとだから
(奏)変わっていこう
(ミク)願うように
(全員)今僕ら 期待の未体験を

(奏)キミの未来を
(ミク)僕が歌うよ
(一歌)描いてもっと
(司)Yeah
(奏)泣いてもいいじゃん
(ミク)それも答えだ
(一歌)どうしたっていいよ
(司)想いは全部
(奏)零さぬように
(ミク)抱き締めながら

(一歌、ミク)キミと見たいセカイへ

全員や一歌&ミクで重要なフレーズをバシッと決めながら、
細かいフレーズはソロパートとして矢継ぎ早にリレーしていく
構成が印象に残ります。

ここもミクソロ版と主語が変わることでまた違った味わいの出るフレーズがいくつもありますね。
特にサビの前半がわかりやすいと思います。

ミクソロ版は「歌っていたい 踊っていたい 痛いほど笑えるように」はミクの想いと考えるのが自然で、
すると「自分を歌わせてくれたり、踊らせてくれたりする人間のおかげで、初音ミクは力を得て笑っていたい」
という解釈になりますね。
尊い。

ところが、

(一歌)歌っていたい
(司)踊っていたい
(奏)痛いくらい笑えるように

という歌い分けになると、その意味がガラッと変わってくるわけです。

・初音ミクの歌に憧れたのが、バンドを始めるきっかけになった一歌
・妹を笑顔にしたかったことが、ミュージカルスターになりたい原点だった司
・自分の曲で誰かを救うことで、自分自身も救われたい作曲家の奏

がそれぞれこのフレーズを歌うことで、そこに新たなエモさが生じているわけです。
尊い。

後半は「僕が歌うよ」がミクに割り当てられているところもポイント高いです。

ボカロと人間のデュエット自体は初音ミク黎明期から散発的に発表されていましたが、
一般に受け入れられる素地ができたのは、2018年発表の鏡音リン&みきとP「ロキ」の影響が大きいかと思います。

この楽曲(プロセカの「セカイver.」の多くがボカロ&人間デュエットですが、この曲は特に)のパート分けは、
そこからさらに一歩先に進むチャレンジだと感じました。

概念的な歌詞といい、いろいろな意味でミク発売10年以上経った今だからこそ成立するものだと思います。

まとめ

というわけで、「セカイ」のセカイver.(ややこしいな…)に関しては
四人の歌唱パート分けがとにかく嫉妬するほど絶妙だというのを感じました。

パート分けに関しては、『ガルパ』のようなこの手の音ゲーの先行事例や、
ほかの2次元・3次元アイドルへのもうちょっと深い知識を持ち合わせていれば
多分違った視点からも語れるとは思うのですが、そこは他の人にお任せします。

他にボカロPとして楽曲の構成や編曲、コード面など
作曲家YouTuberのような楽曲解析っぽいことも書いた方がいいのかもしれませんが、
あいにくそういった実力を言葉にできる力はありません。

それに「音として完成したもの」を聴くだけでは、
「Rockwellさんの編曲が光る、王道の爽やかポップス」ということくらいで
実はあまり書くことがなかったりします。

ただ、初音ミクと人間3名という構成で、
しかも人間は男性1名・女性2名の混在チーム
かつ、人間の中でも全体の主人公ポジションである一歌ちゃんを若干立てつつ
生身の男性・女性・そして初音ミクの音域を意識したメロディを作る。
そして『プロセカ』のテーマ曲にしつつ、
『プロセカ』を知らない人にもある程度共感を得られるようにして、
歌詞を作り、割り当てていく。

このことから察するに、かなり複雑なパズルを解くような作業が必要なのは伺えました。

ミクソロ版を聴けばミクのキャラソンにも聴こえるし、
その他のキャラが一緒に歌ってるのを見ても、
ミクと各キャラ、それぞれのキャラソンとしての解釈もできる。

ミクソロ版が食器だとしたら、セカイver.はその上に盛られた料理のような存在ですね。
この2バージョンは評価軸が全く違い、そもそも比較する対象ではない。
ただ、この食器は私は美しいと思うし、料理も私は美味しく食べることができました。

作者の皆さんが本当にそこまで考えていたかどうかはわかりませんが
(自作曲の解釈コメに対して「そこまで深く考えてないよ!」はボカロPあるあるなので)
このような解釈の余地が残せる楽曲を作れるというのは、
「有名Pはこれができるから有名Pなのだ」というのをまざまざと実感しました。

なお、この「セカイ」も「ワーワーワールド」も、
どちらも複数のボカロPによる共作だというのも見逃せない事実です。

異なるセカイを横断する俯瞰的な曲を作るために、
ボカロPの個性のぶつかり合い、すなわち現実世界で異なる価値観を衝突させたという、
ある種非常にメタ的な構造を伺い知ることができます。

このように、作品に「情報」や「物語」が加わることでより輝きを増すというのは
これまでも数多くあったことですが、『プロジェクトセカイ』に関しては
バーチャルシンガーという存在を組み込んで、より響く物語を作り込むことが
少なくとも現時点ではそれなりに高いレベルでできているという印象を受けました。

スタッフ、ボカロPともに、
本気で『プロジェクトセカイ』における「Tell Your World」を目指して作ったのだろうという
気合とクオリティの高さを感じる楽曲でした。

現在『プロセカ』では楽曲募集のコンテストが行われています。(定期的に行われるそうです)

「セカイ」などの既存テーマ曲と同じことをやっても
予算・時間・才能をすべて注ぎ込んだ作品にはとてもかないませんから、
もし私が参加するならば私なりの表現で挑みたいと思います。

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著者「アンメルツP」について

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