ボカロにラップさせる調声手法。抑揚のつけ方やパラメータ設定を紹介します | G.C.M Records

ボカロにラップさせる調声手法。抑揚のつけ方やパラメータ設定を紹介します

2016年発行のアルバム『with you』に収録し、その後今年2019年に動画で公開した、
鏡音リン・レンがチャンネル争いをするラップバトルなボカロ曲「Battle the Channel」。
おかげさまで色々な方にご覧頂いております。ありがとうございます。

今回はそのボカロ調声(調教・レッスン・トレーニング・マニピュレートetc)において、
私アンメルツPがVOCALOIDエディタで行った
自分なりのテクニックのポイントをいくつか解説させて頂きます。

ラップだけでなく、トークロイド(VOCALOIDによるしゃべり)にも応用できるかと思います。
人によって実現方法は様々かと思いますが、参考になれば幸いです。

制作環境

使用DAW:SONAR PLATINUM(現:Cakewalk by BandLab)
使用VOCALOIDエディタ:Piapro Studio
使用VOCALOID:鏡音リンV4X、鏡音レンV4X

基本方針「すべてをピッチベンドで表現」

Piapro Studioのスクリーンショット。ノートは平坦で、ピッチベンドをいじっていく
基本方針。ノートは全部平坦で、「Pitch Bend」で抑揚のすべてを表現する(クリックで拡大)

鏡音リンのメインとコーラス、鏡音レンのメインとコーラスという
全部で4つのトラックがありますが、
すべてのトラックで、ノート(音符)は全部平坦となっています!

音の高さは以下のとおりです。
・鏡音リンのメイン=D3
・鏡音リンのコーラス=B2

・鏡音レンのメイン=B2
・鏡音レンのコーラス=G2

リンとレンの声の高さに差をつけて個性を出してやります。
基本的に曲じゅうしゃべり倒すことになるので、オケのキーとは必ずしも高さを合わせなくても大丈夫です。
メロディを考えなくていいという点では、むしろ普通の歌モノよりも楽かもしれません。

ではどこで音程をつけているかというと、上の画像で複雑に波を打っている
「Pitch Bend」(ピッチベンド)の部分になります。
この部分はパラメータを上げ下げさせることで細かい音程の上下を表現できます。
これでラップを表現しているというわけです。

Pitch Bend Sensitivityの設定を変更しておく

ここでポイントなのは、その下の「Pitch Bend Sensitivity」(ピッチベンドセンシティビティ)という値を
あらかじめ変えておくことです。

「Pitch Bend Sensitivity」 とは、
「Pitch Bend」を最大限上げ下げしたとき、どれくらい音程が変化するかを表すパラメータです。

「Pitch Bend Sensitivity」のデフォルトの値は「2」で、この場合は
最大限上げたら半音2つ分、すなわちボカロエディタのピアノ・ロールの2個上の音を発音します。
元の音が「D3」なら「E3」のことですね。

ただ、この初期値では狭い音域の変化しか表現できないため、このパラメータを上げると
ラップや話し言葉のような抑揚のある声を表現できるというわけです。

Pitch Bend Sensitivityの値は「12」に設定するのが良いでしょう。
こうするとパラメータを最大限変化させたとき、
半音12個=ちょうど1オクターブ上下の声を出すことができます。

私は、ラップ曲に限らず全ての曲(のメイントラック)でこの値を「12」に変更しています。
しゃくりや抑揚などを簡単に表現できるからです。

音符(ノート)を打ち込む

歌詞(リリック)を考えたら、まずはピッチベンドのことはいったん忘れて
Piapro StudioもしくはVOCALOID Editor、VOCALOID5上にその歌詞を並べていきます。

4小節か8小節を入力したあたりで、ひたすら該当の部分をループ再生しながら
納得する発声になるまでピッチベンドを細かくいじります。
この作業を繰り返してラップを作り上げていきます。

Piapro Studioの場合は、ループ再生しながらのリアルタイム調声にタイムラグがほとんど無いため
非常に作業効率が良いです。

VOCALOID5の場合は、長いフレーズを調声すると重いレンダリング処理が行われ、
その間は変更した発声が反映されないことがあるため
8~16小節くらいごとにハサミで細かくパートを分割しつつ作業をしていくことをおすすめします。
(最新バージョンは、リリース直後よりは少し重さが改善されました)

音符(ノート)の長さを考える

鏡音リン「わかんないオフサイド」(クリックで拡大)

このとき音符の長さは、ここぞという場所では
8分や16分、32分音符ぴったりではなく、歌詞に応じてちょっとだけ変えると
よりラップらしい効果が出ることもあります

上の画像はリンが「わかんないオフサイド」としゃべっている場面です。
音符の長さが微妙に違うことが見て取れます。
極端に言えば、わ「かーん」「なーい」「おーふ」「さーい(ど)」のような感じですね。
これでちょっと人をナメたようなチャラい煽りになります。

また、ひとつひとつの音符の長さは微妙に違っているのですが
「かーん」「なーい」「おーふ」「さーい(ど)」 というひとかたまりの音は
それぞれ合計がきっちり8分音符の長さ
となっています。
これにより、核となるリズム感は失うことなくチャラさが表現できるわけです。

ちなみにこの状態で再生ボタンを押すと、すさまじく棒読み状態のボカロ声が聴けます。
この音声が表に出ることはまず無いので、ボカロPならでは(?)の特権のひとつです。
「すっぴんの顔を知ってるのは俺だけなんだぜ!」という優越感のような何かがあるとかないとか。

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1音ごとにカーブを描いていく

Piapro Studioのスクリーンショットの拡大画面。
最初の入り「毎週楽しみな恋の行方 見据え」の部分の拡大図

あとはひたすら一音ごとにピッチベンドのカーブを描いていくだけです。

以上!!!

…だけではアレですので、もう少し細かく見ていきます。

カーブの描き方で大事なのは、「人間はこのフレーズをどうやって発声しているのだろう?」
細かく観察し、それをボカロの声に落とし込む
ことです。
自分でラップを声に出しながら、そのピッチを考えてみましょう。

例えば上の画像では、「毎週楽しみなの行方」の「」の部分は最初に少しピッチが下がっています。
日常会話では「恋」は「こ」にアクセントがつきますが、
実際にフレーズの中で自然にリリックをつなごうとすると「こ」で下がるのがいい感じになるはずです。

もっともこれも後に繋がる歌詞・ライミング(韻の踏み方)で変化する部分です。
実際の歌詞では「見据え」と続くため、「行方」の「」が高い音で発声していますが
これが例えば「いて」という風にオ段・イ段でライムを踏む場合は「の」の「」を強調するほうに持っていくと思います。

その 「行方」の「」 、「見据え」の「」ですが、
どちらも1音の中で急カーブを描いて下降していくようなパラメータ設定になっています。
ラップの中でアクセントとなる韻を踏むフレーズ、シャウトするようなフレーズには
よくこのような急カーブを登場させます。

ラップやしゃべりは1音の中で音程が複雑に変化するゆえに、
ノートの音程だけでは再現が難しい部分であり、ピッチベンドでの表現が最適というわけです。
(中にはノートの分割等でリアルなトーク表現をする方もいらっしゃいます)

リンとレンにフロウ(歌い方)の個性をつける

今回、リンとレンに個性・キャラ付けをするために
少しだけリンとレンでラップのやり方(フロウ) に差をつけています

レンは00年代前半あたりの王道の男性日本語ラッパーのイメージなのに対して、
リンは少し上から目線な斜に構えたキャラとでも言うのでしょうか。

そこが一番よく出ているフレーズを見てみます。

2番初めのレン 「舞台から全国民へ向けSmile Bomb落とす」 の部分と、
それを受けるリンないわー本来ライブと言ったらウタバン」のフレーズです。

鏡音レン「舞台から全国民へ向けたSmile Bomb落とす」
Piapro Studioのスクリーンショット。鏡音リン「ないわー 本来 ライブと言ったらウタバン」
鏡音リン「ないわー 本来 ライブと言ったらウタバン」

レンの一連のフレーズでは、
たいからんこくみんへけたまいるおとす」
と、色文字で強調した部分の文字一文字にそれぞれ急カーブが描かれています。
これにより、早口でシャウトしながらまくしたてるイメージを表現しています。

逆にこの部分のリンは、むしろ1音ごとの急カーブというよりは
「ないわー」「ほんらい」という塊ごとにゆるやかなカーブを描きました。
これにより、煽りトークのようなゆったりとしたラップを表現したつもりです。

ここらへんは実際の人間がラップをしている曲をたくさん聴くことで
パターンの引き出しを広げることができるでしょう。

ヴァース(平歌)とフック(サビ)の歌い方に差をつける

1番を広く見渡したところ

最後に、歌の1番全体をPiapro Studioで広く見渡したのが上のスクリーンショットです。

「ヴァース」とはヒップホップ用語で、J-POPで言うところのAメロ・Bメロのこと。
対して「フック」はサビのことを言います。

ここでの見てほしい点は、以下の3つです。
(1)「Pitch Bend」(ピッチベンド)を使った抑揚の差
(2)「Brightness」(ブライトネス)の設定
(3)「Cross Synthesis」(クロスシンセシス)の設定

「Pitch Bend」( ピッチベンド)を使った抑揚の差

フック(サビ)のほうが、ヴァース(平歌)よりも全体的な抑揚を激しく設定してあります。
フックではシャウトするフレーズが多いので、急カーブを描く機会も必然的に増えます。
一方、ヴァースの部分でピッチベンドを最大値まで上げ下げするような場面は
最小限にとどめておいたほうが良いでしょう。

「Brightness」(ブライトネス)の設定

「Brightness」(ブライトネス)を上げると力強くシャウト気味に歌い、
下げるとぼそぼそと歌います。
この値の設定に差をつけることで、ヴァースとフックに歌い方の差をつけました。

リンはヴァースでデフォルトの64だったのが、フックで100前後に、
レンは元々100前後なのがフックでは最大値の127まで上げている場面もあります。

2サビ以降にリンのBrightnessを上げ忘れたのはここだけの内緒な。

「Cross Synthesis」(クロスシンセシス)の設定

「Cross Synthesis」(クロスシンセシス)とは現状VOCALOID4だけにある、
複数のライブラリの声の出力を混ぜて自分だけの声を設定できるパラメータです。
これを曲中でリンのメインでのみ細かくいじっています。

具体的には、ヴァースでは「鏡音リンV4X Power」をベースに
「鏡音リンV4X Warm」の成分が3割くらい入っています。
ただフックでは「Warm」は5%ほどに下がり、ほとんど「Power」の歌声として歌っているという具合です。

ちなみにリンのコーラスでは、PowerとWarmがほぼ半分ずつ。
レンのメインでは、PowerがメインにColdが15%ほど。
レンのコーラスでは、Coldの比率が4割くらいまでに増えています。

みなさんもパラメータの操作やピッチベンドによる抑揚のつけ方などで
ぜひ自分だけの「うちの子」ボカロの歌い方、ライミングをレッスンさせてみてください。

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著者「アンメルツP」について

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