とある古参ボカロPが綴る「『プロジェクトセカイ』リリースに寄せて 」 | G.C.M Records

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とある古参ボカロPが綴る「『プロジェクトセカイ』リリースに寄せて 」

※この文章は、『プロジェクトセカイ』リリース前日である2020年9月29日に書きました。

はじめに

こんにちは、ボカロPのアンメルツPです。

このブログでは主に創作ノウハウやDTM知識を発信しておりますが、
今回は自分の気持ちの整理を兼ねて、いよいよ明日2020年9月30日にリリースとなる
初音ミクたちバーチャル・シンガーが登場するスマホゲーム
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(プロセカ)について
今の気持ちをつらつら書いていこうかと思います。

プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク
https://pjsekai.sega.jp/

後から見返した時に「ああ自分当時はそんなこと考えていたんだ」っていうことを残したくて書きました。

最初にあった抵抗感の正体

「プロジェクトセカイ」に対しては、
最初の頃は自分の中に抵抗感と期待感がないまぜに同居していました。

今でも抵抗感は若干薄れたものの、まだ少し存在はしています。

抵抗感としての理由の部分は、やはりオリジナルキャラが前面に押し出されていることが一番ですかね。

まあ実際、正式タイトルは『プロジェクトセカイ カラフルステージ! “feat.初音ミク”』であって、
“初音ミク” -Project DIVA-』とは位置付けの違う存在であることはわかるのですが。

特にTwitterの私のタイムラインにはキャラ寄りの人やボカロ古参が多いので尚更のことだったんですが、
新しいミクさんのゲームが出る!と期待していたのにオリキャラが主役で、
バーチャル・シンガー(個人的にはこの書き方すらもまだ違和感があるんですが、VOCALOIDじゃない初音ミクも出るので仕方ない)がどちらかといえばサポート役を務めるという内容に、
とりわけ発表初期には違和感を覚える人が多かった気がします。

ただその後は、プロジェクトセカイのスタッフの皆さんをはじめとする
丁寧な情報発信(インタビュー、動画、生放送、体験版)により、
既存のボカロファンの心を少しずつ溶かしていき、
長い時間をかけてようやくリリースにたどり着いたという感覚を持っています。

色々あって当初からリリースが延期された訳ですが、
もっと稼働が早かったら、おそらく理解が進まないままにリリースとなり
あまり順調にいかなかったのではという思いがありますね。

セカイはまだ始まってすらいない

私がプロセカはおそらく成功するだろうなって思った一番のきっかけは
2020年4月に発表された、ピノキオピーの楽曲「セカイはまだ始まってすらいない」です。

この楽曲が、自分の中で今年ベストなボカロ曲のひとつと言えるくらい本当に良かったんですね。

ノスタルジックなメロディーが最高ですし、
2020年という今の時代に対する完璧な回答の曲でありながら(制作時期的には偶然だそうですが)、
同時にプロジェクトセカイというゲームや、それをとりまく環境に対する完璧な回答にもなっている。

この曲で私は手の平を返した感があります。
(そして同時に、ユニットではワンダーランズ×ショウタイムを特に推していこうと決めました)

インタビューから考える、プロセカにおけるオリジナルキャラの存在について

それから8月に公開された、電ファミニコゲーマーさんの
力の入った超ロングインタビューがありました。

『プロジェクトセカイ』は音楽と人間の関わりを支える“初音ミク”という存在を具現化した作品に【開発者インタビュー】
https://news.denfaminicogamer.jp/interview/200803a

この記事ですが、未読の方は明日の稼働に備えて今からでも読むことを強くオススメします

音ゲーとしてのゲーム性にはほとんど触れず、
プロデューサーの近藤Pのボカロシーンにかける思いを中心とした構成で、
丁寧にオリジナルキャラクターの世界を解き明かしている記事です。

私はこの記事で、
かなり繊細に(むしろ過剰なくらい)方向性をコントロールしてここまでこぎつけたというのを感じて、
このゲームの方針にある程度納得をしました。

バンドやアイドル、ボカロPらがユニットを組んでいるそれぞれのオリジナルキャラは、
「ボカロシーンをとりまく人間」の一種象徴的な存在であると。

つまり、表現する私自身でもあり、ボカロを聴いている私自身でもある。

「これはボカロを囲む自分たちの物語なんだな」と考えてほしい、という気持ちが
インタビューから伝わりました。

様々な音楽ジャンルをつなぐゲーム

よく考えたらこれまでは、バンドが登場するゲームは「バンドもの」というひとつのゲームでしたし、
アイドルが登場するゲームだったら「アイドルもの」というひとつのゲームになっていましたよね?

また、5ユニットのうち2つはメンバーが男女混合の編成となっています。

一つ一つのユニットがそれぞれ別ゲームになっていてもおかしくないくらい方向性が違うのに、
ボカロ(バーチャル・シンガー)という一つの共通点で、同じゲームとして成立する

これこそがボカロ無しでは成し遂げられないことなのかもしれない。
そんなことを思いました。

各セカイに登場するミクさんも、5人全員が髪の色が違うことに象徴されるように、
「うちの子」的なボカロの多様性を示しているのではないかと思います。

インタビュー記事中の画像より引用

ボカロの多様性、「なんでもあり」感を表現するために、
いろいろな人間たちがボカロに関わっているという姿を見せるという手段をとった。

それは決して最善策とは言わずとも、商業ゲームという枠の中で可能な限り考えて
(例えばアンダーグラウンドならもっと取り上げて欲しいPがいるとか、公募企画の工夫とかありますが)、
SEGAさん、Colorful Palleteさん、クリプトンさんの出した答えなのかなと思います。

なお余談ですが、プロセカの各ユニットの名前は去年秋には発表されていましたが、
「25時、ナイトコードで。」という創作集団ユニットのネーミングは、
YOASOBIやヨルシカらの「夜好性」ユニットの今年に入ってからのブームに通じるものも感じ、
今から考えたら、とても時代を読んでいると思います。

音ゲーとして面白いのか?体験版を遊んで

それでも疑問はまだ尽きません。
前述のインタビューで触れられなかった部分があります。
「じゃあ音ゲーとして面白いのだろうか?」という肝心のゲーム性ですね。

これは体験版を遊ぶことである程度納得はできました。

音ゲーの部分は、無難に面白いです。
特にロングノーツを厳密に取らないといけないので、物量の割には難易度が高めの印象はあります。
ただ、全体的には高揚感があって楽しいですね。

判定の部分とか処理落ちなどの不満については、リリース後の改善に期待していきたいです。

まだバーチャルライブについては、
そもそも私はサイリウムを振る行為自体がそれほど好きなほうとは言えないのですが
(どちらかといえばロックフェスノリに近いものが好き)、
それでも「スイートマジック」のサビでジャンプしたりなどのアクションはとても楽しかったです。

他の人と一緒にライブに参加することの一体感は、スマホゲーとしては十分すぎるくらい
感じることができると思いました。

そして、明らかな運営サイドのメッセージとして感じたのは、音ゲーの難易度ですね。

5段階の難易度設定のうち3段階目の「HARD」でも、
音ゲーをきっかけにボカロPを始めた私にもそこそこ歯ごたえがあるものでした。
そして「MASTER」ははっきり言って、ゲーセンに毎日通うような音ゲーガチ勢向けの本気の難しさです。

SEGAさんはこれまでもアーケードで様々な音ゲーを展開していきましたが、
プロセカの最高難度は「チュウニズム」のそれや、他社のアーケード音ゲーのボス曲に
匹敵するもので、スマホの操作性を考えるとさらに難しい部分もあるかと思います。

もちろん「EASY」や「NORMAL」はかなり簡単ではありますが、
もうちょっと全体的に低めの難易度にすることもできたはずなのに、あえてそうしていない。

これは音ゲーガチ勢向けのメッセージもあるのかなと思います。

セガサミーホールディングスは、直近四半期(2020年4~6月)は赤字となっております。
巣ごもり需要でソフトは伸びたものの、サミーとしてのパチンコの不調もありますし、
なによりセガは自らゲームセンターも運営しているので、そこの大幅な失速がありました。

その部分もあり、この時期に、既存のアーケードゲームと同じような
難しい音ゲーを攻略する楽しさを味わってほしい
という思いも感じました。

あとは、配信映えの部分や、e-Sports的な展開も見据えているのではと想像しました。

プレイ動画配信も不適切なものを除き禁止とはされていないため(広告つきも禁止とはされていない)、
めぐりめぐって原曲制作者の利益にもつながる部分はあるかもしれません。

「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」二次創作に関するガイドライン
https://pjsekai.sega.jp/news/article/index.html?hash=4294aa774d50be788fcaed45092491c17f9e163d

マネタイズはちょっと心配

ひとつ心配なのは、
こんなにめちゃくちゃ豪華な仕様なので、マネタイズはどうするんだろう?という部分です。

音ゲーは課金しなくても練習すればクリアできますし、
全く儲からないゲームを作っても意味がないわけですからね。

ガチャ?
有料ライブ?
プレイや新曲に対してお金を払う?
月額数百円のチケットを作って有利に進められたり、ライブで目立つような特典を配る?

など、どう回収していくかというのは運営側の腕の見せ所だと思います。

プロセカ稼働後のセカイでも生き残りたい

過去の歴史から振り返ると、
最初はみんなある程度の抵抗感を抱きつつも多くの人が転んでいくところが、
なんとなくカゲプロの初期をとりまく雰囲気に似てるなと思って見ています。

これも「なんでオリジナルキャラ?」という部分と、初期の商業的な進め方によって
抵抗を覚える人もいた(今でも言わないだけで一定数はいると思う)んですが、
現在ではひとつのコンテンツとして定番になっていますし(私自身も二次創作CDを作りました)、
初音ミクやIAなど、ボカロの「語り手」としての性質がなければ、おそらく成立してなかった物語だと思います。

平和な海原もちろんいいんですけど、
大きな挑戦というのは、それに伴って大きな波もどうしても生み出します。

プロセカも、抵抗がある人は最後まで抵抗があるままだと思います。

私自身も、まだ始まってもいないゲームにああだこうだ言ってるだけであり
稼働前の印象から全体としては好意的な思いで記事を書きましたが、
ストーリーの解釈違いやゲームシステムの不満があれば手のひらを返す可能性がないとも限りません。

DIVA同様「大手サークルの二次創作」であり、
これはボカロ、合成音声界隈のほんの一部でしかありません。

ただ、「ほんの一部」ではあるのですが、
ここ数年の中では、そして今後数年にわたって、
ボカロシーンに与える最も大きな存在のひとつであることは間違いありません

「プロセカのないセカイ」は今日でおしまいです。

明日からは「プロセカのあるセカイ」が始まります。

明日からは『プロジェクトセカイ カラフルステージ feat. 初音ミク』というモノが存在することを前提に
私たちも活動をしなければならない。
それがとても楽しみではあり、怖くもあるというのが正直な感想です。

しかし、これまでもボカロをとりまく環境は

・このような大きな力を伴った創作と、それに乗っかる人々
・それに抵抗する、
反骨心やアイデアを持った人々
・そして、大きな流れなど全く関係なく、マイペースで活動する人々

の思惑がそれぞれ重なり合って生み出されてきたと思います。

私もこのゲームや現象を時には楽しみ、時には抵抗もしながら
これからも私自身、新しいセカイを生み出せるように進んでいきたいと思います。

(追記)ゲーム稼働後の私の反応や感想など

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著者「アンメルツP」について

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