【500文字×20曲】ボカロPの筆者が魅力を熱弁したいおすすめボカロ曲(+α) | G.C.M Records

【500文字×20曲】ボカロPの筆者が魅力を熱弁したいおすすめボカロ曲(+α)

2012~2016年にかけて、ネット上や同人誌を通じて、
ネット上で聴ける楽曲(主にボカロ曲)の楽曲レビューを中心に活動していた
「DAIM」という団体があり、
私も楽曲レビューの寄稿や本の編集・入稿など様々な形でお世話になりました。

現在は活動休止につきレビューサイトを閲覧できないため、
こちらに(一部を除く)私の分の楽曲レビューをまとめて掲載いたします。

主に2011年~2014年に発表された楽曲について、
400字~500字ほど、原稿用紙一枚分程度の文章でレビューをしております。

レビューを書いていて捗る曲というのは、
例えば「拍子が独特」であるとか、「歌詞が個性的」「音楽愛に溢れている」など…
「何らかの語りたくなる特徴」を持ち合わせているわけです。

つまりここに記載の曲は、私の好きな曲、おすすめの曲というのはもちろんなのですが、
それ以上に、レビュー記事を通して大勢の人につい語りたくなってしまった魅力を持つ曲
個人的に衝撃を受けた曲が並んでいるというわけです。

寄稿はちょうどキリのいい20曲あったので20選としました。
うち18曲がボカロ曲で、2曲がBMS(簡単に言うと同人音ゲー)が発祥の曲です。

ニコニコ動画で数千~数万再生という楽曲が中心ですが、
1,000再生前後の世間的には隠れた名曲(投稿者的には4桁行けば凄いんですけどね…)も
多く取り上げています。
新しい曲の存在を知るきっかけになればと思います。

※DAIMの曲レビューでは「だ・である」で口調を統一していたのでここでもそうなっています。

鼓動、加速する鼓動 /Inagi

ポップスの常識に挑戦するような、
一曲の途中でBPM(曲のテンポ)が頻繁に変化するギターポップ。

BPM変化という楽曲のテーマそのものが歌詞のテーマにもなっており、
「乱れた脈でも 共鳴できるでしょうか」というフレーズが
まさにそれを象徴している。

この曲でのミクは頻繁なBPMの変化にもかかわらず、
抑揚を控えた歌い方をしている。
優しい調声である一方、やや無機質にも聞こえるのだが、
むしろオケのほうがミクの歌に合わせて柔軟にその速度を変えることで、
このミクに「感情」を与えているように聞こえてくる。

もっとも、クラシックだったり、各地に伝わる民俗音楽のような音楽の長い歴史からすると、
最近のポップスのように一曲の間で全くBPMが変化しない楽曲のほうが
実は、珍しいのかもしれない。

ポップスがそんな縛りから解放されたとき、そこには音楽の
新たな表現の可能性があることを示す一曲である。

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■2012年発表
■歌:初音ミク
■作詞/作曲/編曲/動画:Inagi
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存在のアンサー/SASA

かつて弾いていた、今はしまい込んでいるギター。
大人になって部屋の隅にあったそれを、再び取り、弾いて歌う。

SASA氏が2011年10月に発表した、ボーカルに鏡音レンを起用した
ストレートなギターポップ。

「衝動のないROCK」や「安っぽいPOP」も肯定して、
「僕以外の何にもなれないから、自分らしく歌を歌う」。
今日も誰かに届くことを信じながら。

少年の頃の「ただがむしゃらだったあの頃の気持ち」を回想し、
あえて永遠の少年である鏡音レンの声に載せて綴られている
この曲は
鏡音レン自身のキャラクターソングともとることができ、
一方でかつてのギター少年だった方や、
いわゆる「ボカロでDTM出戻り組」な方々にとっては
自分自身に歌を重ね合わせ、共感して聴くこともできることであろう。

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■2011年発表
■歌:鏡音レン
■作詞/作曲/編曲:SASA
■ギター:桜澤祐稀
■イラスト:コガネ(ピアプロより)
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ミライサヤカニ /クラフトP

立ち止まっている者、悩んでいる者たちに
愛のある平手打ちを食らわせる
かのごとく
心に深く深く響きわたる応援歌。

クラフトPは諸事情により、2011年7月に投稿した「ブラインドレック」を最後に
クラフトPとしての活動を休止し、この間は別名義でひっそり投稿を続けてきた。
一部の人はそうしたバックグラウンドを知っており、
この歌詞を本人の軌跡と重ね合わせるように聴いた方もいることだろう。

そんな事情を知らなくとも、
このVOCALOID猫村いろはによる腹の底から声を出しているかのような声質と調声、
それを引き立てるアコースティックで暖かみのある伴奏は、サビの
「所詮チョキに勝ち誇るグーでしかない」
「君が過ごすのはまだ余生じゃない」

などの強烈な言葉を含むメッセージを、現実感と説得力を持つものとして
聴く者の心の奥まで届ける力を持っている。

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■2012年発表
■歌:猫村いろは
■作詞/作曲/編曲:クラフトP
■イラスト・写真:裏花火
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シンデレラ~another story~ /たっくん

この曲は、ニコニコ動画への動画+ピアプロへの短編小説の同時投稿という
スタイルで公開された楽曲である。

曲を作る際プロットを練っていくと、短編小説が書けるくらいに
バックグラウンドの設定が膨れあがることが往々にして存在する。
そこから厳選して500文字前後が最終的に歌詞になるが、その中で伝えきれないことは多い。

近年、ボカロ曲の小説派生は商業でも盛んだが、一般流通に並ぶためには
百数十ページの分量を用意し、きちんと文章も整えたものにする必要がある。
その点、Web公開は分量もフォーマットも自由で、しかもピアプロならば
音楽と密接にリンクさせる形で投稿もできるメリットがある。

馴染みのあるシンデレラという物語をベースに、作者独自のストーリーを加え、
鏡音リンとレンに演じさせた切ないこのポップロックは
まず曲だけを聴き、次に小説を読んだあとに改めて聴くと
全く違った響きを味わえる
ことだろう。

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■2011年発表
■歌:鏡音リン・鏡音レン
■作詞/作曲/編曲:たっくん
■イラスト・動画:soriku
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Mr.Stop Ageのオールド・ファッション/時代詐欺師

ミクから時代に取り残された「彼」に送る
心をえぐるロックンロールの贈り物。

この曲のミクの声の処理は非常に特徴的である。
言葉を聴き取りやすくするためにボカロの声をなるべくはっきり
前に出す曲が一般的な中、この曲でのミクは、
音楽全体を包み込むような調声となっている。

間奏で前面に立つギターソロと対照的で、
これが激しいメロディーの動きがない中でメリハリをつけるものとなっている。

また随所に人間男声によるコーラスが展開されているが、
これもミクの声やオケと一体と言えるほどに馴染んでいてとても心地いい。

歌詞における感情表現は最低限であり、ただ「彼」の言葉と情景の描写を
まどろむような雰囲気のロックでもって、淡々と綴られている。

それが、どこか懐かしいサウンドとあいまって、
「昔が良かったんじゃないけど、俺が新しい時代についていけなくなった」
的な切なさ
や、やるせない感情が湧いてくるナンバーとなっている。

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■2012年発表
■歌:初音ミク
■作詞/作曲/編曲:時代詐欺師
■イラスト:夕凪ショウ (piapro)
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スケールでフレット計算/ここのか

本来歌詞として作られたものではない文字の羅列を
歌詞としてVOCALOIDに歌わせるという試みは
これまでも度々行われてきた。

その中には、わたしょ氏「森永ミルクキャラメルのテーマ」
πP「あの双子が円周率1000桁に挑戦」といった名作も存在する。

さて、この楽曲は、作曲者自らが以前制作した
「曲作りを楽にするために作られた、簡単な計算を行うプログラム」を
そのまま歌詞として、GUMIの英語ライブラリに歌わせた曲
である。

プログラム自体が、偶然にも歌唱に最適な長さ・構成(2回繰り返しのサビが2度できる!)
であることに加え、「;(セミコロン)」「 ” (ダブルクォーテーション)」など
プログラムで頻出する記号がそのまま歌詞としてのアクセントになっており、
これがアップテンポな四つ打ちの曲調とも相まって、
不思議な中毒性、ノリを生み出している。

プログラムによって作られたVOCALOIDというソフトウェア。
それが、プログラムを歌い、曲として世に出す行為をサポートしたという事実に
何かロマンを感じずにはいられないのは私だけだろうか。

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■2013年発表
■歌:GUMI
■作詞(プログラミング)/作曲/編曲:ここのか
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秒針の世界/スノーノイズP(lulu)

変拍子と儚いレンの声が誘う、ノスタルジーな世界

一聴して気づくのは、この曲の特殊なリズムである。
5拍子と6拍子(イントロは一部7拍子)の組み合わせが
Aメロ、Bメロ、サビでパターンを変えて登場するという複雑なものだ。

しかし、これらの拍子はほとんど違和感なくまとまっているため
聴き手が特別に意識せずとも、曲の世界に
自然にのめり込むことができる。

「VOCALOID民族調曲」のタグがつけられる曲調であるが、
この曲の歌詞に描かれる世界には「民族」の要素はない。

しかし、レンAppendを使用した儚げな声と
夢の世界と主人公の内面をまどろみ行き来するような歌詞は、
郷愁を帯びた「ここではない空間」へと聴き手を誘っている。

コーラスにはUTAUの合唱用音源である「ラ・ズィマッキエ」が使用されている。
サビでレンの声と溶け合うように馴染んでいてとても心地良い。

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■2013年発表
■歌:鏡音レン(コーラス:ラ・ズィマッキエ)
■作詞/作曲/編曲/動画:lulu(スノーノイズP)
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ペンシル・デイズ /黒田亜津

9つのVOCALOIDライブラリを使用し、合唱形式で綴られる卒業ソング。
これまでを振り返って様々な経験を経てきた「今」をスタートラインとして
未来に踏み出していこうという強い意志を感じる一作である。

この曲には「ぼかりす」が各パートで使用されている。
無調声でそのままVOCALOIDを合唱させると、ピッチに狂いがないため
複数の声が完全に溶けこんで一体化してしまう。
そこで人間歌唱(マイリスト説明文によると御本人が8回歌ったらしい)のピッチを
ぼかりすによって取り込むことで、自然に曲に聴き入ることができる
完成度の高い合唱を実現している。

なお執筆時点で動画タイトルは曲名の「ペンシル・デイズ」ではなく、
「塾講師なので本気出して卒業ソングをつくってみたよ」となっている。

作者の黒田亜津氏は、処女作「浪漫主義」や「P.a.r.a.l.y.z.e」など
もとより複数の殿堂入り作品を持つPであるが、
この曲が受け入れられた背景には、その元々の実力はもちろんのこと
現場の前線にいる人物だからこその共感できる歌詞作りもあったものと想像される。

近年学校における卒業ソングの定番となっている「旅立ちの日に」も、
中学校の校長が作詞し、音楽教諭が作曲したものであった。

「黒田亜津」が本名かは知る由もないが、
活動名としてこうした漢字の質実剛健な印象の名前を使っていたことも、
「塾講師が届ける卒業ソング」という想像を膨らませるひとつの要因に
なっているというのは考えすぎであろうか。

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■2013年発表
■歌:初音ミク・GUMI(メグッポイド)・IA・巡音ルカ・Lily・神威がくぽ(がくっぽいど)・VY2
■作詞/作曲/編曲:黒田亜津
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conflict/siromaru + cranky

BMSという文化が生んだ、ひとつの到達点

BMS一斉公開イベント「THE BMS OF FIGHTERS 2011」個人戦優勝作品。

ユーロビートやゴシック風味のRAVEなど、派手ながらも
優雅できらびやかなサウンドが印象的なcranky氏。
シュランツと呼ばれる、ハードなテクノを得意とするsiromaru氏。
共に10年以上に渡り、ネット上で音楽活動を行ってきたBMSの第一人者的存在である。

その二人が「優勝狙いで作る」と公言して制作し、
見事に有言実行を果たしたコラボ曲がこの「conflict」である。

キックと低音シンセでガンガン脳内に響いてくる重厚なビート。
一方、序盤と終盤のボーカルパートでは、美しい響きのピアノが心を揺さぶる。
2分半の曲の中で、二人の持ち味がそれぞれに衝突(conflict)と融合を繰り返す
合作の醍醐味、面白さが存分に味わえる作品となっている。

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■2011年発表
■作曲:siromaru + cranky
■歌:pico
■映像:iimo
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※DAIMにレビューを寄稿したのは2013年だが
その後「チュウニズム」や「SOUND VOLTEX」「グルーヴコースター」など商業流通の音ゲーにも
多数収録され、名実ともに両氏の代表的作品となっている。

また、2018年1月には4分半余りのロング版が収録されたアルバム(CD/デジタル)も発売された。

トップ・オブ・ザ・ワールド/LOUIE510(姪にせっつかれP)

「音楽が好きなことを隠せない」音楽が大好きだ

80年代メロディアスハードロックというキーワードに
ピンと来た人なら、イントロでのギターの節回しを5秒聴いただけで
心を撃ち抜かれる
ことは確実だろう。

この曲調を鏡音レンが歌うというだけで、
かつての音楽をいまの時代に歌い継ぐ永遠の少年、という構図を想像して
ぐっときてしまう。

この爽やかなロックナンバーには、ある別れから10年が経過し
当時の思いを胸に、まだどこかで再会できることを願いながら
上を目指す主人公の心を綴った歌詞が載せられている。

世界のてっぺんは遠すぎて 辿り着く日はきっと来ないけれど
少しでも近づきたい 君との約束叶えるため
(歌詞より引用)

現に誕生から30年経っても根強いファンも多い
このメロディアスハードロックという音楽ジャンル。
きっとこの主人公も、10年間といわず、これからもずっと
大切な思い出を忘れないように抱えて生きていくのだろう。
それは、この曲に込めた作者の思いにも繋がるものがある。

世知辛い現実の中、せめて歌の中だけでは夢や希望を持っていたい。
そんな願いを込めた音楽が、今日もどこかで生まれ続けている。

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■2013年発表
■歌:鏡音レン
■作詞/作曲/動画:LOUIE510(姪にせっつかれP)
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遠距離恋人に会いたい /apolP

作者自身の実体験を元にした、どこまでもピュアで真っ直ぐなラブソング

曲を包み込む主役のピアノを、柔らかいストリングスが引き立てる
バラードで、シンプルな言葉で綴られている。
全体的にシリアスな展開の中に「デート」という、どちらかといえば
軽めに聴こえるフレーズを持ち出すことで、普通のカップルの日常が
この二人にとって特別であることを強調している。

ボーカルは、鏡音リン・レン(Appendと思われる)によるデュエットである。
「本来一緒にいるはずの二人が、何らかの理由で離されている」という
関係を描き、切なさを出すには最適な組み合わせである。

音域は少し高めだが、揺らいでいて今にも泣き出しそうな感じに
繊細に調声されており、胸に染み込んでくる。

作者のapolPは、フィリピン在住の海外ボカロPである。
以前記載されていたYouTubeでの本人コメントによると、
日本語の歌詞はこれが初挑戦とのこと。

バラードの特徴として、言葉を大切に紡ぐジャンルであることが挙げられるが、
日本語として、ごく自然に耳に入ってくる完成度であることに驚かされる。

どのような経緯があったかは楽曲とコメント以外からは知る由がないが、
遠く離れた恋人を想う気持ちを、本人や周囲の人に伝える手段として
日本語を選び、日本語VOCALOIDに歌わせた、
そして2019年現在、YouTubeには日本人の共感コメントが多数寄せられている事実に、
何かこみ上げてくるものを感じずにはいられない。

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■2013年発表
■歌:鏡音リン・鏡音レン
■作詞/作曲/動画:apolP
■イラスト:Niekaori
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オモイデコロン/桜餅

香りとともに残り続ける、消えない思い出

タイトルは「ドラえもん」に登場したひみつ道具から。

「オモイデコロン」は、ふりかけた物の持ち主の夢に、その物との思い出を映し出す道具であり、
漫画ではこれを使って、捨てられていた人形の持ち主に思い出を蘇らせ、
もう人形を捨てないと改心させた。
思い出を大切にしようというメッセージが込められた話である。

一方この曲で描かれるのは、ひとつの恋の終わりである。
「あなたがいない部屋」にかすかに残るコロンの香り。
それと共に、これからもどうしても浮かんできてしまうだろう思い出。
忘れたい、でも浸っていたい。そんな複雑な感情が綴られている。

「薬指のリング触る癖」など、深い恋だったのだろうと
想像させるフレーズがより一層切なさを加速させる。

曲調は、ミドルテンポの飾らないストレートなポップスである。
イントロでのキラキラしたベルの音、Bメロでの印象的なストリングス、
そして泣きのメロディーラインが強く印象に残る。

「失って気づく存在」「恋の未練」というテーマはポップスでは普遍的なものであるが、
この曲はタイトル元との鮮烈な対比を通じて、それが効果的に描き出された作品といえよう。

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■2013年発表
■歌:鏡音リン
■作詞/作曲/動画:桜餅
■イラスト:今音マナ
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UK道中HARDCORE万丈/猫足零本 feat. ひめりんご

新ジャンル「UKハードコア演歌」

BMS投稿イベント「GENRE-SHUFFLE 2」優勝曲。

「GENRE-SHUFFLE」とは、事前に参加者、および聴いてみたい「音楽ジャンル」の募集を行い、
これらのリクエストされたジャンルからくじ引きで割り当てられたものを
参加者が実際に作る
という、非常にカオスなイベントである。

その2回目となる今回のイベントも、慣れないジャンルに悪戦苦闘する者や、
強引にジャンルを自分のテリトリーに持っていこうとする者などが続出した中、
この曲には、なんとレビューした38人全員が満点の評価をつけた。
(※聴き手は3点、参加者は5点が満点)

そのお題は無茶ぶりともいえる創作ジャンル「UK HARDCORE ENKA」。
しかし作者はこのお題に真正面から取り組み、この曲を完成させた。

抜けがよく非常に心地良いキックやシンセサイザーのサウンドと
ひめりんご氏のこれぞ演歌というこぶしの効いた唄い方が全く違和感なく融合しており、
あたかもこのジャンルが昔からあったかのような錯覚にとらわれるナンバーである。

まず笑いが、それに少し遅れて感動が込み上げてくるという体験をぜひ味わってほしい。

『大暴投を場外ホームランで打ち返した』(イベント運営者総評より)この曲は、
まさに制約が新たなクリエイティブを生んだ好例であると言えるだろう。

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■2013年発表
■作詞/作曲:猫足零本
■唄:ひめりんご
■映像:瓢箪
■BMS譜面制作:hi-low
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I Love Me!!/薄塩指数

自分を信じて走り出したい人へ

メロディアスなパンクロック。
90年代後半~00年代前半、日本でメロコアと呼ばれるジャンルが
一般的になりはじめた時代を彷彿とさせるような
懐かしくもストレートなナンバーである。

ギターが奏でるコードに幸福感を感じる曲調とは裏腹に、
歌詞は、誰もが悩みを持ちながら生きる現実を歌ったものだ。

お金も才能もない、自分を理解してくれる人もいない。
そんなメロ部分での悩みの吐露を経て、サビでは力強く
「愛なき時代だからこそ、自分を愛そうぜ!」と歌い上げる。

自分を好きになれずに、どうして他人が自分を好きになるのだろうか?
いっそ開き直って、どん底から這い上がってやる!
ユーモアの裏に、そんな吹っ切れた強い意志を感じる歌詞である。

「泣かないぜ、もう子供じゃねえ」なんてフレーズが似合うのは
重音テトという声とキャラクターならではであろう。

自分を信じて走り出したい、そんな人はぜひこの曲を聴いてみてほしい。
この曲の場合、「そっと背中を押す」どころか人によっては
上からタライを落とされるような衝撃に見舞われるかもしれないが、
きっとそのショックが自分の目を覚まさせてくれるはずだ。

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■2013年発表
■歌:重音テト
■作詞/作曲:薄塩指数
■イラスト:中二病な妹
■動画制作:涼。
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きにしないきにしない/ヤミカ

「気にしない」ことの強さと弱さとは

ヤミカさんが鏡音レンを起用して綴った意欲作。

音楽のジャンルとしてはチップチューンだが、
ひたすら楽曲のメッセージを届けるために淡白な展開に徹している。

この曲のポイントは、中盤以降の空気の変化にある。
1:49から入ってくる、冷ややかなパッドの音だ。
ピコピコでどちらかというと温かみのあると感じられたオケに、強烈な違和感を運んでくる音
音としては1パート加わっただけなのだが、これが場面転換として鮮烈な印象を残している。

坂道で転ぶ、先生に怒られる…
子供時代の前半で語られるのは、すべて自分に振りかかってきた出来事だ。
そこで「気にしない」ことは、子供の【前向きな強さ】を表している。

しかし大人になり世界を知るにつれ、遠くで起こった出来事の情報が押し寄せてくる。
そんな世界の現実に対して思う無力感。
そんな世界の現実を憂いつつも、何も行動できない、しない自分。

大人にとって「気にしない」ことは、
現実から目を背ける、【後ろ向きな弱さ】なのではないだろうか?
そのようなメッセージを感じる曲である。

成長するにつれて、徐々に変わっていくレンの声にも注目してほしい。
(おそらくGENを少しずつ上げているのだろう)

映像においても、歌詞の字体など随所にメッセージを焼きつける工夫が凝らされている。
ぜひ映像とともに、曲の意味をしっかり噛み締めて頂きたい。

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■2013年発表
■歌:鏡音レン
■作詞/作曲/イラスト:ヤミカ
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Our Song/Wonder-K

人間同士の調和を、美しいメロディに載せて

世界には、たくさんの音が溢れている。
人は泣きながら生まれ、鼓動を胸に宿しながら、たくさんの言葉を交わし生きる。
心地良いものも、そうでないものも時にはあれど、その音が鳴り止むことはない。

そこには多くの出会いがあり、その中には、運命に導かれたかのように
永く時間を過ごす相手もいることだろう。
そのとき、二つの音の歩み――メロディは、美しく融合したハーモニーになる。

そんな人間同士の調和を、美しいメロディに載せて初音ミクが歌うのがこの曲だ。
オケは綺麗なリバーブがかけられたピアノを主役に、ストリングスやギターが優しく包み込む。

世界中に音楽を運ぶ、VOCALOIDという存在のミクは、人間同士の関係も強く結んでいく。
そうして無数のハーモニーが生まれ、ミクを媒体にして、また新しい歌が流れていく。
これは人ならざる存在が紡ぐ、人間賛歌のバラードナンバーである。

私自身はこの曲はラブソングの要素が強いと考えているが、
コメントではその曲調から、卒業ソングを連想するリスナーも多いようだ。
実際歌詞は、特定の人間関係を強調していない「二人」「僕ら」が主役なので
ここから、シチュエーションに合わせた様々な人間関係に解釈することが可能であろう。

人の関係は、1対1の関係が無限に連なっているもの。
この世界が、美しい旋律で満たされることを願いたい。

さあ、”エンディングへ続く道を なるたけ遠回りして歩こう”(歌詞より)

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■2014年発表
■歌:初音ミク
■作詞/作曲:Wonder-K
■イラスト:銀星(piapro)
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ミュージックおじさん/nimo@

真っ向勝負の、おじさんミュージック

爽やかで飾らないギターポップ。
イントロのギターには、不思議と子供の頃を思い出すようなノスタルジーさがある。
一点の曇りもない明るい進行とメロディー、後半以降の優しいストリングスが耳に心地よい。

「来年も元気でいられる保証はないから」と歌い、
また時には人間の弱さや時代に対する無力感も見せつつも、
自らを「ミュージックおじさん」と自称し、周囲を元気づけるために
あくまで明るくふるまう姿
が歌詞では描かれている。

年齢を重ねるとともに、捨てなければならないものにも気付く。
身近な人の幸せを守るために、今日を必死になって生きている。
だからこそ、歌で愛や希望、未来などの理想を表現したくなるのだ。

かけがえのない人達を笑顔にするための、生活に根付いた音楽。
それは小細工なんかいらない、真っ向勝負でメッセージを伝えるもの…
そんな想いを、曲と歌詞から感じる一作である。

音楽は本来、若い人だけのものではないはずだ。

「ギターを弾くと不良になる」と呼ばれた時代から、「大人のギター教室」が人気を博すまで数十年。
いつかVOCALOIDにも、そういう時代がやってくることを信じて
これからもこのムーブメントを見守っていきたいと思う。
“老害”と自ら名乗るのは、そんな時代が来てからでも遅くはない。

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■2014年発表
■歌:鏡音レン
■作詞/作曲/動画:nimo@
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ハリネズミ*Distance/清-saya-

「ヤマアラシのジレンマ」を表現するコーラスワーク

お互い近づきたいのに、相手を傷つけてしまうのが怖くて近づけないという
「ヤマアラシのジレンマ」をモチーフにしたポップス。

オケはヒップホップ的な要素が加わった、00年代邦楽ポップスの
雰囲気を感じる一曲である。

ややスローテンポで、展開を抑え気味にしたトラック。
アコースティックギターやパーカッションが印象的で、とても透明感がある。
そこに少し言葉数多めで、メロディアスな旋律を流れるように歌うボーカル。
若干声は小さめにミックスされているが、その分オケとの一体感、溶け込みを感じる。

この曲で特筆すべきは、ボーカルである鏡音リン・レンのハモリ、コーラスワークの絶妙さだ。

独立したり、支えあったり、追いかけたりはすれども、ユニゾンにならないじれったさ。
惹かれ合った者同士なのに、似たもの同士なのに、やっぱり違う存在。
サビ後半でのリンの切ない高音コーラスは特に印象的で、まるで針のように突き刺さる。

このコーラスの距離感が、そのまま歌詞で描かれる二人の距離感を
わかりやすく示していると言えるだろう。
これが、「鏡音リン・レン」という音源の持つ醍醐味のひとつである。

「ヤマアラシのジレンマ」という言葉は、
“「紆余曲折の末、両者にとってちょうど良い距離に気付く」という肯定的な意味として使われる”
こともあるという。(Wikipediaより)

その「紆余曲折」は、この歌では「この地球を半周歩いた頃」と表現されている。
なんともロマンチックな話ではないだろうか。

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■2014年発表
■歌:鏡音リン・鏡音レン
■作詞/作曲/動画:清-saya-
■イラスト:小梅(pixivより)
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もしも桃が流れてくる川が激流だったら/ふに(妹)、製図P、mokemoke

物語音楽とはなんだったのか

誰もが知っている『桃太郎』の話をモチーフした楽曲だが、
ストーリーが斜め上方向に超展開し、視聴者を腹筋崩壊の渦に巻き込む問題作である。

最初のバージョンは、2012年に発表された同人CD
『Crazy,be ambitious』の収録曲として発表されたものだ。

クロスフェード動画で聴く限りでは、
シンセや8bitサウンドの打ち込みが特徴的なポップロックのようである。
この曲をmokemoke氏が気に入り、大幅に編曲を加えたのがこのニコニコ動画発表版だ。

この段階でギターや調声も別の方が担当となり(なにげに調声も凄まじいレベルである)、
製図Pの当初の制作動機である「ふに(妹)氏の歌詞と某氏の曲調を混ぜたら」
という方向性をより強固に確立していったものと思われる。
動画も、フォントや動く歌詞、高速逆再生MVの演出などについニヤリとさせられてしまう。

・ボカロではないキャラが主人公
・和風な世界観
・突然の理不尽に襲われる
・グロ要素
・最終的に登場人物が死ぬ(バッドエンド)

…などと、さりげなく流行りの物語音楽の要素を数多く兼ね備えていながら
それらをすべて笑いに転換してしまっている
のは、
やはり「カゲロウデイズ トラックの運転手目線で歌ってみた」などの
替え歌に定評のあるふに(妹)氏のセンスによるところが大きいだろう。

ある意味、これは正しい意味での「パロディ」と言えるのかもしれない。
…風刺の意図は恐らく無いだろうけれど。
…いや、案外風刺されているのは、ふだん物語音楽のことを
わかったように語っている人達かもしれませんよ…?

ともかくこの作品は、「ネタに対して全力で遊ぶ」を体現した、
まさに「ニコニコ動画」らしい一作と言えるのではないだろうか。
ぜひ視聴の際は理屈抜きにして楽しんで頂きたい。

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■2014年発表
■歌:初音ミク
■作詞:ふに(妹)
■作曲:製図P
■編曲:mokemoke
■調声:攻
■ギター:黒
■イラスト:スギタ
■動画制作:ぽかげ
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ブラックマイン/rokugatsu

※ニコニコ動画で非公開、のち2018年YouTubeに再投稿

鏡音レンの低音が独白する本音

ボカロ初期より継続的に活動を行っている「ここ狭いP」ことrokugatsuさんによる作品。

氏の得意とする、ゆったりとしたギターロック。
メロディアスだがやや低音のメロディーを、丁寧に鏡音レンが歌っている。

歌詞は全編が自分自身に向けたような、心の内側をさらけ出す
いわば主人公の「独白」のようなものである。
一人称の呼称すら、そこにはない。

氏の動画はシンプルな構成のものが多いが、
今回は黒背景にクレジットと歌詞が表示されるだけという
いつにも増して無駄な要素を削ぎ落としたもので、
どこまでいっても黒一色という主人公の置かれた状況を
そのまま体現しているかのようである。

人間はふだん、表向きは気丈に振る舞ってはいても
その裏には、表に出しにくい本音を誰もがひとりで抱え込んでいる。
喉まで出かかりながら、飲み込んだ愚痴もあるに違いない。

この曲では、そんな本音の部分を
鏡音レンが腹から出すかのような低音の声で語るように歌っているため
リスナーは、あたかも自分自身が愚痴を吐き出せたような感覚に囚われるのだ。
それゆえ、聴いた後には不思議とすっきりした感覚が残るものとなっている。

決して派手な盛り上がりはないが、深く深く心を捉えて離さない作品である。

関連リンク:
人はなぜレンを持つと高速歌唱を控えめにしていつもよりメッセージ性の高い曲を作るのか

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■2014年発表
■歌:鏡音レン
■作詞/作曲/編曲/動画:rokugatsu
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