ボカロPの筆者が2020年上半期に何度も聴いたJ-POP10選 | G.C.M Records

もしかして:J-POP最近めちゃくちゃ面白い 2020年上半期に何度も聴いたJ-POP10選

ボカロPの筆者が2020年上半期に何度も聴いたJ-POP10選

はじめに:2020年上半期J-POPの傾向

こんにちは、ボカロPのアンメルツPです。
今回は私が2020年上半期によく聞いたJ-POPを紹介します。

2020年の全体の傾向として、明らかに音楽のヒットの潮目が変わった気がします。
しかも、2007年の「初音ミク」登場以来最大の変化であると言っても過言ではないと考えます。

というのもコロナ自粛があり、その間に何ができなくなったかと言うと、
バンドのライブやアイドルの握手会が封じられたわけであります。

これは2010年代の音楽シーンにおいて、両方とも作品のヒットやアーティストの知名度向上、
収益にとても重要な役割を果たしていたわけですが、
それができなくなり、またこの先もしばらく規模を少し縮小せざるを得ない状況です。

その結果何が起こったかというと、
「ヒット曲=動画サイトやストリーミングサイトでヒットした曲」になったという
実感があります。

Spotifyのバイラルチャート経由でのヒット、
およびYouTubeやTikTokでの創作の輪が以前よりもかなり影響力を増しているところがあり、
10年前にネットの片隅で回っていた音楽シーンがそのまま100倍に拡大したような世界
来たなという印象があります。

「これがあなたの望んだ世界ですよ」と10年前のniconicoファンに言うとそれは賛否両論あるかもしれませんが、
これまで地味にネット中心で撒かれてきた種が、コロナという外的要因もあって
ここにきて一気に収穫の時期を迎えたという印象はありますね。

(90年代好きとしては、CDがYouTubeに、カラオケがTikTokにそのまま置き換わって
時代が繰り返しているだけ
という気もします)

ボカロ曲そのもののヒットはあまり目立たないかもしれなかったけど、
チャート上位を見渡すと米津玄師さん、ヨルシカ、YOASOBI、須田景凪さん等々…という
状態です。

TOKYO FMのラジオ番組「JUMP UP MELODIES」(通称「じゃんめろ」)
Spotifyの急上昇チャートのまとめが毎週聴けるのですが、
従来のJ-POP、ボカロPら新世代のポップス、TikTokで注目を浴びた曲、K-POP、洋楽(西洋音楽)が
同じ土俵でガチバトルを繰り広げているので楽しいです。

さよならの今日に/あいみょん

今年上半期に1曲だけ選ぶとするならばこの曲です。

日テレ系の夜11時台ニュース番組「news zero」のエンディング曲として書き下ろされた曲ですが、
そのタイアップに対してまさに完璧な回答となっており、
今日1日起きてから今までにあった出来事や成し遂げたこと、後悔などを走馬灯のように振り返りながら、
これから寝てまた明日一日が始まるんだという時にじっくり聴きたい曲に仕上がっています。

ゆったりとしたロックで、低音が軸のところもその時間、シチュエーションにふさわしいですね。

何より、各サビの終わりで「不滅のロックスター」や「伝説のプロボクサー」など
伝説的な人物を例に出して、「あの人はどんなふうに明日を生きたんだろうな…」という独白のような歌詞が
自分自身を取り巻く様々な人物と重なり、毎回涙が出そうになります。

志村けんさんが亡くなったニュースを報じる2020年3月30日の「news zero」でもエンディング曲として流れ、
多くの涙した人のコメントがYouTubeの動画にも書かれていたんですが、
個々人の尊敬する人や自分自身の状況を思わず振り返る、そんな力がこの曲にあります。

本当になんでこんな歌詞書けるんだよ…と悔しくなるレベルですごい歌詞、曲だと思います。
聴くと高確率で泣くのであまり頻繁に聴けないタイプの曲ですね。

花に亡霊/ヨルシカ

ボカロ曲は主に鏡音リン・レンを中心に聴いているため、
実は私はナブナさんのボカロ曲を通ってないんですが、
最近はヨルシカの曲も聴いています。

その中でもこの曲は、ボーカルの終盤の締め付けるような切ない歌い方がとても好きで、
ゆったりと聴けつつ緊張感・メリハリも伴っているイメージです。

イントロ・サビのギターの雄大な空気感、開けた世界を感じる歌詞。
夏の小高い丘に立って風を浴びているような爽やかさがあります。

この曲にはなんとなく懐かしい感覚があって、正体を探っていたんですが…
曲調やメロディはまったく違うのですが、個人的にはマイラバの「Hello Again」に
何か近い雰囲気を勝手に感じました。(※感想には個人差があります)

ちなみにYOASOBIもわりと好きでよく聴いています。
代表曲「夜に駆ける」も好きですが、個人的には「あの夢をなぞって」
なんとなく初期のボカロ曲の雰囲気もありつつも現代的なセンスも兼ね備えていていい感じです。

星影のエール/GReeeeN

NHK 連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」の主題歌として話題にもなったこの曲は、
8分の12拍子のリズムと、彼らならではの高音ボーカルを生かした
夜空の広がりを感じさせるような雄大なメロディが聴きどころです。

GReeeeNと言えば王道のメロディ作りに定評がありますが、
今回は3分20秒という現代的な長さの中に、それぞれ展開の違うサビや壮大なCメロを詰め込んでおり、
5分以上あるんじゃないかと思わせる、短さを感じさせない展開は本当に見習いたいです。

歌詞も好きです。
彼らは身近な人の恋愛や出会い・別れを歌うのが多い印象ですが、
今回もそれを踏襲しつつも、今回は特定のシチュエーションを最小限にして、
人間の普遍的な友情や愛情を歌っているのが、このメロディにぴったりです。

自分の中ではこれぞ 「ザ・J-POP」と言える曲ですね。

香水/瑛人(2019年発表)

「じゃんめろ」にランクインしていたことから知った曲。
それまでも水面下で動画サイト中心にじわじわと広がっていったようです。

4月ぐらいに私が話題にした時はあまりピンと来ていなかった人が多かった印象ですが、
最近にきて一般にもキャズムを超えてきた感じがあります。

この曲に関しては、サビの歌詞とメロディがあまりにハマりすぎていて心地良いという一言ですね。
例えるなら、写真における「奇跡の一枚」みたいな感じです。

歌詞も、ナヨナヨした男…と言いますか、
失恋の時に入っているダメ人間モード、退廃感・無力感といった
誰しもに起きそうな人間の心理をうまく描ききっています。

また作曲(DTM)やっている私にとっては、
「えっ、アコギ一本で全国的なヒットが出るんだ!難しいことしなくてこれでOKなんだ!」という
衝撃があります。

もちろん昔からピアノ一本などのシンプルなオケでヒットしたJ-POPは沢山ありますが、
(Kiroroの「長い間」など。あれも当時小室さんの曲やR&B曲がヒットする中異彩を放っていましたね)
自然体で生まれた曲がこうして多くの人の共感を勝ち得ていく現象は、とても興味深いですね。

「じゃんめろ」2020/7/10放送では瑛人さんがゲスト出演して曲が生まれた経緯を話していましたが、
バイト先の店長がドルチェ&ガッパーナの香水を瑛人さんにひょんなことから預けて、
そのまま返し忘れてレコーディングに行ってしまい、
そこで即興で作った曲に「ドルチェ&ガッパーナ」というフレーズを入れたことから
誕生した曲だということでした。

ヒットの種って、どこに潜んでるか分からないという可能性を感じた作品です。

猫/DISH//(2017年発表)

2017年発表の原曲が、アコースティックバージョン(THE FIRST TAKE ver.)から今年ブレイクしました。

「THE FIRST TAKE」は、TBWA\HAKUHODOの清水恵介氏がディレクションを手がけているとされる
登録者数140万人を誇るYouTubeチャンネルです。

様々なアーティストによる一発録りを配信するという企画なのですが、これが時流にハマったのか
ここからブレイクする楽曲が多数誕生しており、今後も要注目のチャンネルです。

ボーカルの魅力が存分に感じられるアコースティック版、
ストリングスが包むサビなどまさに王道J-POPバラードの原曲版、どちらも好きです。
サビのメロディが、二段構えからの押さえも完璧で、こういうサビを本当に作ってみたいなと思います。

歌詞は先ほどの「香水」よりもさらにナヨナヨしていて、
もうひたすらいろいろあって別れたけど、なにかの拍子に君が猫みたいに戻ってきてくれないかな」という
ある種「なろう系」のような欲望を秘めた作品なんですが、これがとってもいいんですよ。

ちょっとしつこいぐらいのバランスではあるんですけど、
猫という一種の綺麗事なロマンチックに包んで表現しているところが愛しいです。

で、よくよくクレジットを確認すると作詞・作曲があいみょんさんなんですよ。

あいみょんさんはけっこう男性的な歌詞を書く方だと思っているんですけど、
こういった男の弱さを的確に見抜かれているところにドキッとして、やっぱりすごいなって思います。

ちなみにあいみょんさんによるセルフカバー版の音源も存在するんですが、
とてもレアな、高音を張り上げて歌う彼女の声が聴けます。

あなたの彼女じゃないんだね/上野優華

こちらもゆったりとしたテンポで綴られる失恋の歌です。

上野さんのボーカルが悲しすぎるでもなく、調子を抑えたまま綴っている印象なんですが、
恋をしていた頃の理想がいまだに頭によぎる歌詞が展開していき、サビの終わりの
「そうだ私こないだからあなたの彼女じゃないんだね」でいきなり現実のギャップが押し寄せてくるという
主人公の心理をそのまま歌の展開で追体験ができるのが切ないです。

「香水」「猫」も含め、2020年前半は、妙にこうした路線の曲が流行った印象があります。

個人の印象なんですが、ここ10年から20年って「前向きな失恋」がテーマの曲がJ-POPに多くなかったですか?
(SEAMO「マタアイマショウ」のイメージが自分の中で強すぎるかもしれません…)

総じてオケにカラッとしたイメージがあるので現代的ではあるんですが、
少し雰囲気を変えると昭和のフォーク楽曲でも通じるんじゃないかなと。

ジャンルごとにものすごく細分化していく音楽がありつつ、
その反面ストレートなポップスはどストレートに向かうという二極化がある気がします。

ちなみに作詞・作曲のwacciさんは自身で「別の人の彼女になったよ」という曲を出して
こちらも話題になっています。

東へ西へ/iri(2019年発表)

2019年11月に発売された井上陽水さんのトリビュートアルバム「井上陽水トリビュート」からの一作。
YouTubeでは単体では上がってないのでクロスフェードを貼っておきます。

これはiriさんならではの超低音でソウルフルな女性ボーカルがどハマりしている一作ですね。

アレンジもハウス仕立てになっていて、盛り上げすぎるでもなく、かといって暗くなるわけでもなく、
事実を淡々と受け止めているイメージのオケが原曲のメッセージに合っています。

この井上陽水さんのカバーアルバムは、人選もアレンジもバッチリはまっています。

ヨルシカの「Make-up Shadow」、King Gnuの「飾りじゃないのよ涙は」、
椎名林檎さんの「ワインレッドの心」、ACIDMANの「傘がない」など、
完全に自分の曲になっているという感じですね。

カバーアルバムとして最高の出来だと思うので、ぜひチェックしてみてください。

Shout Baby/緑黄色社会

「僕のヒーローアカデミア」4期のエンディングテーマ。

自分らしい人生を目指して前向きになるような歌詞の曲はたくさんありますが、
内側から揺さぶりをかけていき、胸の奥から高鳴ってくるような言葉の表現と展開
メロディともあいまって素晴らしいです。

最後のサビに至るCメロの疾走感もたまらないです。

例えば昔のアニメソングのように、ストレートに熱さを感じるわけではないんだけど、
ボーカルの伸びやかな声と合わさり、心が燃え上がるような一作になっています。

これまでも彼女たちの曲は好きだったのですが、
今年に入ってからこの曲といい「Mela!」といい、一皮さらに剥けた印象があります。

Good Morning~ブルー・デイジー~ feat.aiko /東京スカパラダイスオーケストラ

昨年のスカパラとミスチル桜井さんとのコラボ曲「リボン」でも思ったことなのですが、
スカパラの谷中さんが書いた歌詞がバッチリ桜井さんやaikoさんのイメージにはまってるんですね。

このコラボ相手に愛情・リスペクトを感じるソングライティングは本当にたまらないです。

大切な人との別れをなんとなく匂わせた歌ではありますが、あまりその悲しさを感じさせない雰囲気が
まさにaikoさんの普段からやっている路線という感じですし、
そのイメージがホーンセクションの持つ明るさのおかげで加速しています。

コラボならではの、お互いの良さを引き出した作品だなっていう風に思います。

君の名前を呼ぶ/元ちとせ(2016年発表)

※再生できるのはYouTube Music Premiumのメンバーだけかも

これは2020年に出た曲でもなければ、特に世間的に大きく話題になったわけでもなく、
たまたま私が「RaNi Music」で流れていて今年知ったというだけの
「2020年上半期に私が聴いた曲」ですが、紹介させてください。

「ワダツミの木」などでおなじみの奄美民謡歌手・元ちとせさんによる、
2016年に発表された映画『ゆずの葉ゆれて』主題歌です。

美しい海や山といった風景が浮かぶ、郷愁を誘うオケの雰囲気。
誰もが持っているような故郷へのノスタルジーや、人間の暖かさを描いた歌詞に心が癒されます。
元ちとせさんならではそのおおらかで暖かい独特の声が映えますね。

自分が曲を好きになるきっかけとして、メロディの綺麗さに惹かれることが多いのですが、
この曲も例に漏れずメロディが自分のツボです。
特にサビ最初の「君の名~前を呼ぶ~よ~」の「名~」の伸びやかさと声の調和がたまらないです。

これを含む4小節のメロディを2回繰り返した後で、
最後に心が落ち着く場所に、歌詞とメロディが一緒に着地するような展開にはグッときます。

あと、「名前を呼ぶ」というテーマに弱いですね自分。
THE BACK HORNの「美しい名前」とかまさにそうですし、
ラックライフの「名前を呼ぶよ」とかもそうですね。
人間は汚いところもありますが、大切に思っている人の名前を呼ぶ行為は尊いです。

ちなみに「いつ発売された」っていう情報自体は、この動画サイト時代において、
最新曲以外はもうあまり重要ではなくなっているのかもしれません。
ネットにおいては、あらゆる世界の音楽、あらゆる時代の音楽がフラットに同じ土俵にあがります。

日本の「シティポップ」が海外に発掘されたように、
今後も思わぬ時代の思わぬ世界の音楽がブームになる可能性もあります。

おわりに

偶発的ヒットVS綿密な仕掛け

そんなわけで10曲を書いてきました。

やはり2020年には、後から振り返った時に「音楽シーンが変わった年」
語られることになるのではと思います。
(まあ、それ言うなら「全部のシーンが変わった」とは言えるんですが…)

私としては、2000年代後半に感じはじめ、それがボカロに移行する要因のひとつともなった
J-POPに対する違和感のようなものが、ここに来て解消されはじめてきた感覚があるんですよね。
自分に合う歌も増えてきている気もしますし…。

下半期どういう曲が出てくるかわかりませんが、動画サイトは本当に何が流行るかは分からないので
そこから偶発的にいろんなヒットが生まれてくるかもしれません。

あるいは非常に緻密に計画した仕掛けをする大手さん
(というかSony Musicさんに対抗できる勢力)が現れるか…
そこも楽しみにしております。

Sony Musicはアニソンタイアップやsupercell、じんさん、Mitchie Mさん、米津玄師さんらの作品を通じて
かなりそっち方面の知見を従来から溜めており、それらのノウハウをここにきて
動画サイトでヒットを飛ばすための仕掛けに注ぎ込んでいるという見立てを私はしています。

いやマジでSony Musicのトップページから主要作品・アーティストを見てみてください。
私完全にソニーの手の平で踊らされていますよ。

今後のリスク要因

しかしこの先読めなくてリスク要因となりうるのが、実は世界情勢だったりします。

日本のクリエイターは意識的に(私を含め)そうした話題を避けてきたところもあるんですが、
この先も同じようにいられるのか?
自分自身ではどうにもできない大きな流れに巻き込まれてしまうのでは?
というところを心配しています。

状況によっては明日にでもTikTokが日本で使えなくなったり、
YouTubeの規約やおすすめアルゴリズムが変わったりする可能性はゼロではないわけです。

その時、海外のプラットフォームに依存傾向の強い日本の現状のオンラインエンタメが
どうなっていくのかに危うさを感じています。
(だからこそniconicoにはもうちょっと頑張って欲しいと思っています)

その中でも、自分は自分で引き続き作品を作りつつ、
いい曲が生まれたらそれも精一杯楽しんでいければと思っています。

次の記事「」へ

前の記事「」へ

著者「アンメルツP」について

関連記事・広告

記事をシェアする